屋上から見た空は全てを飲み込む深い青をしていた。
しばらく見つめていると自分があの青に取り込まれているような気がしてきた。
…・現実ではないとわかっていながらも、しばらくその空想に浸っていた。
それが現実になることを祈りながら。
――どのくらいそうしていただろう。
突如現れた声に私は現実に引き戻された。
「**ちゃん、此処に居たんだ」
心地良い空想から引き戻され軽い不快感を覚えた。
しかし声はお構いなしに話しを続ける。
「お弁当食べた?私まだなんだ。まだ食べてなかったら一緒に食べようと思ってずっと探してたんだよ」
「探してる暇があったら先に食べていれば良かったのに」
不快感も露わに私は言った。
「あ、そうだった。」
考えてみればそうだよね、と笑う彼女を侮蔑の眼差しで見た後、先ほどから手をつけていなかった弁当に目をやった。
おかずは卵焼きとウィンナー、ほうれん草の胡麻味噌和え、と好物ばかりだった。
…どれから食べようか。
迷っている間も彼女は喋り続ける。学校のこと、授業のこと、担任のこと、友達のこと
尽きることのない話題を聞き流しながら私は卵焼きを口にした。
少し砂糖が入っていてそれは甘く、美味しかった。
「あ、そうだ。この間ね・・・・・・」
彼女は本当に器用な人間だ。喋りながら箸を動かしているのだから。
味わって食べているかどうかは別として。
「――食事の時くらい静かにしたら?」
たまらず私は言った。
「え?あぁ、うんそうだね。そうする」
そう言いつつ彼女はなおも口を閉ざそうとはしない。
彼女は知っているのだろうか?自分が陰で「スピーカー」と呼ばれていることを。
「でさぁ………」
尚も喋る彼女を尻目に私はぼんやりと数日前の事を思い返していた。
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