弁当を片づけていると、いつの間にかフェンスの方に移動していた彼女が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、此処から飛び降りたらさぁ、空飛べそうな感じしない?」
あたし空飛ぶの夢だったんだ、ととこちらに背を向け笑う彼女をたまらなく鬱陶しく感じた。
喋り続ける彼女を見ながらあのときの彼の言葉を思いだしていた。
「壊せばいいだろ。」と彼は言った。
そうすれば煩い思いをしなくて済むと。
「**ちゃんは空飛びたいって思ったことある?」
はしゃぎながら問う「スピーカー」を見て私は決意した。
…このスピーカーを壊そう、と。
私はゆっくり立ち上がり彼女の背後へと歩を進めた。
一歩一歩音を立てないように。
――彼女に気づかれないように。
――彼女は気づかずに話し続ける。
後一歩踏みだし両腕を前に突き出せば彼女の体は宙に投げ出され、そのまま地面に叩きつけられるだろう。
そうしたら私は「スピーカー」から解放される。
私は喜びに打ち震えた。
あと一歩、あと一歩で全てが終わる。
あと一歩。
妄想に耽る私の耳に響く間抜けな音。
始業前のチャイムが喚いている。・
「あ、もう昼休み終わりかぁ。」
次移動だっけ、急がなきゃと慌てて彼女は立ち上がった。
「**ちゃん、行くよ?」
「うん、そうだね。」
私はいつも通りの返事をした。
後日家のテレビが壊れたので買い換えた。
わたしはこのテレビのスピーカーをとても気に入っている。
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